第二回頭頸部癌学会教育セミナー 頭蓋底手術

  第二回教育セミナーは2011年6月8日、名古屋で開催される。主題の一つが鼻副鼻腔癌であり、小生も「頭蓋底手術の適応」を講演することになったので、その要旨を掲載する。本教育セミナーの主たる対象は、臨床経験数年の頭頸部がん専門医試験受験者である。したがって、頭蓋底手術の方法を講演しても、あまり意味があるとは思えない。臨床に直結する講演内容として、「手術適応の判断」にしぼり、外来でのトリアージに有用になるよう考えたつもりである。

  頭蓋底手術はどこの病院でも実施できるものではなく、経験豊富な頭頸部外科医と頭蓋底手術を十分に理解している脳外科医がチームを組んでいることが重要な要件である。当然、それなりの手術件数がなければチームとはいえない。国内で、頭蓋底切除術件数が10例(年間)を超える施設は、10は超えないのではなかろうか。それゆえ、若い頭頸部外科医が頭蓋底手術を見学できる機会はきわめて少ないのが現実である。

  しかし、頭蓋底浸潤悪性腫瘍患者はそこそこ外来を訪れるので、診察の機会は希ではない。大事なことは、手術適応があるかないかのトリアージである。手術適応がありそうであれば、頭蓋底手術を多く手がけている適切な病院に速やかに紹介することで、責任を果たすことが出来るからである。手術の How-to には言及せず、「手術適応の判断」に焦点を絞ったのは、このような事情によるものである。

 

頭蓋底手術とその適応:良性腫瘍は含まない
頭蓋底手術とその適応:良性腫瘍は含まない
頭蓋底を下から見る頭頸部外科の分類と、頭蓋内から見た脳外科医の分類
頭蓋底を下から見る頭頸部外科の分類と、頭蓋内から見た脳外科医の分類
頭蓋底の範囲と分類
頭蓋底の範囲と分類

悪性腫瘍に対する頭蓋底合併切除は、信頼性の高い遊離皮弁の利用が可能となって始めて確立した。(1980年代半ば)

癌専門病院においてさえ頭蓋底手術の頻度はきわめて低い。患者が分散するよりも、特定の施設に患者を集中させた方が専門医の育成に有益だと思われる。

チーム医療、集学的治療である頭蓋底外科。単なる医師の集合体では頭蓋底手術は成り立たない。頭蓋底手術に熱意と意欲があり、かつそれぞれの科において一流の技術を持っている医師集団でなければよい手術は出来ない。

頭蓋底手術に習熟した医師でチームを構成するのが理想であるが、なかなか現実的には難しい問題がある。頭頸科(耳鼻科)に頭蓋底手術に熱心な医師がいても、同じ施設内に頭蓋底に熱意を持つ脳外科医、形成外科医がいるとは限らない。全国的に見て頭蓋底手術適応の症例は多くはなく、症例数確保に努力しなければ技術の維持が難しいだけでなく、若手頭蓋底外科医の養成はできない。将来、頭蓋底外科分野はどうなるか不安である。

良性腫瘍も含んでいるが、手術が奏効した症例を示す。どのようなアプローチで摘出したかという点は、別項でお伝えする。

頭蓋底悪性腫瘍の一塊切除の概念をしめす。硬膜浸潤がなければ治癒的一塊切除が可能である。

左SCC症例では篩板が保たれており、治癒的手術が実施できた症例である。右のACCは篩板が大きく欠損し頭蓋内浸潤を示す症例であるが、硬膜合併切除により根治切除が可能であった。手術適応は病理組織に影響される。このへんは経験に基づく判断が必要とされる。

左SCC症例では篩板が保たれており、治癒的手術が実施できた症例である。右のACCは篩板が大きく欠損し頭蓋内浸潤を示す症例であるが、硬膜合併切除により根治切除が可能であった。手術適応は病理組織に影響される。このへんは経験に基づく判断が必要とされる。

硬膜切除を大腿筋膜で再建(点線)し、その外側(鼻腔側)を前頭骨膜弁(黄線)で再建した。

前頭蓋底の構造と層。 硬膜は頭蓋骨膜と癒着(一体化)している。クモ膜下腔に浸潤する悪性腫瘍は、切除可能であるが再発率が高く、予後不良である。したがって予後をパラメーターに考えた場合、手術適応に関して疑問である。図の縦線をとおる断面図を以下に記す。

腫瘍浸潤範囲の程度を赤に示す。硬膜を貫いてクモ膜下腔に浸潤すれば、手術適応はないと考える(私見)。なぜならば脳を含めた一塊切除は肉眼的に実行可能であるが、微視的には治癒切除にはならないと考えられるからである。肺がんの胸水播種、腹部癌の腹水播種に似ている。経験的にもほぼ一致する。

腫瘍の浸潤範囲、切除範囲に応じて前頭骨切除ラインをデザインする。左図の小型の開窓では術野が限られ、悪性腫瘍の場合は前頭洞、前篩骨洞までが限度である。右図の開窓は、前頭葉は最少の圧迫で挙上でき、蝶形骨まで手術操作範囲が拡大する。術中の脳の圧迫は極力避けなければならない。開頭の部位、範囲はその点を十分考慮することが重要である。

頭蓋骨膜弁作成の参考に、頭皮から骨膜までの層を示す。頭蓋底再建に頭蓋骨膜弁を使用する場合には、頭皮剥離層は外側の二層(皮下脂肪を頭皮側につける)である。 通常帽状腱膜は採取する皮弁に含ませる。頭皮剥離の際に注意すべき点は、頭皮の脂肪がでるかでないかのギリギリで剥離することである。頭蓋骨膜弁は、内側から骨膜、帽状腱膜下組織、帽状腱膜、この三層で構成される。

    Galeaを100%皮弁側に含めれば、血流のよい皮弁となるものの、それだけ前額部皮膚が薄くなり、血行不良に陥る場合も少なくない。その結果、術後の前額部変形、縫合不全、皮膚潰瘍、皮膚壊死が生じる場合もあり、注意を要する。放射線照射症例あるいは頭蓋底切除範囲が眼窩に及ぶ症例には、後述する遊離筋弁による再建が有効であり、安全性も高い。

骨膜弁の種類
骨膜弁の種類

  頭蓋骨膜弁には、写真上段のように前頭部、眼窩上縁に基部を持つ「前頭骨膜弁」と下段に示す側頭部に基部を有する「側頭骨膜弁」がある。前頭蓋底の再建には通常前者を使用する。

  頭蓋底を再建する主たる目的は硬膜の再建、髄液瘻の防止である。前頭葉を下方から物理的に支えるという意義は少なく、眼球を保存した症例で眼窩上壁骨を大きく切除した場合には、眼球を保護する意味で骨による硬性再建は必要であろう。しかし、実際にそのような症例は経験したことはない。眼窩上壁を合併切除する症例は眼球を保存することが出来ないということである。

 

腫瘍浸潤範囲から見た手術適応の判断

手術適応があるか?
手術適応があるか?

 

  冠状断MRIでは、両側鼻副鼻腔を広く占拠する巨大な腫瘍が篩板を破壊し、硬膜に浸潤している。クモ膜下腔から脳に浸潤しているか否かは画像では判断がつかない。

手術適応か否か、練習問題
手術適応か否か、練習問題

千葉徳洲会病院    http://www.chibatoku.or.jp/

 耳鼻咽喉科

 頭頸部外科センター

  

2013年9月で三田病院を定年退職しました。

引き続き、頭頸部腫瘍(悪性・良性を問わず)を中心に診療を続けます。

サイバーナイフ治療は横浜サイバーナイフセンターと提携し、これまでどおり実施しております。

セカンドオピニオンは随時受け付けております。

 

鎌田信悦 (カマタシンエツ)